おっぱいが痛い・熱い…乳腺炎?つらいときの対処と受診目安
【今つらい方へ|すぐやること3つ】
- 授乳・搾乳をやめない──痛む側からでも構いません。たまった母乳を出すことが、いちばんの対処です。
- 患部を冷やす──保冷剤をタオルで包み、授乳の合間に10〜20分ほど。長時間の温めは避けます。
- 痛みと熱は我慢しない──授乳中でも使える解熱鎮痛薬があります。医師・薬剤師にご相談ください。
そのうえで、対処しても24時間たって改善しない/38℃以上の熱が続く/しこりがブヨブヨしてきた──このときは我慢せず受診してください。

はじめに
「おっぱいがズキズキ痛い」「触ると熱くて、赤くなっている」「しこりが取れない」「寒気がして熱まで出てきた」──今まさにその状態で、この記事を開いてくださったのではないでしょうか。
赤ちゃんのお世話をしながら胸の痛みに耐えるのは、本当につらいことです。乳腺炎は授乳中の女性のおよそ1割が経験するとされるトラブルで、多くは早い段階で適切に対応すれば落ち着いていきます。
この記事では、今すぐできる対処と、逆にやってはいけないケア、そして「これ以上は我慢しないでほしい」受診のラインを、産婦人科の視点で整理してお伝えします。
その症状は乳腺炎?セルフチェック
まずは今の状態を確かめてみましょう。当てはまるものはありませんか。
- 乳房の一部が硬く、しこりのように触れる
- その部分が赤く、熱をもっている
- ズキズキした痛みがあり、押すと強く痛む
- 38℃前後の発熱、寒気、関節の痛みなど、かぜのような全身症状がある
- 母乳の出が悪くなった、赤ちゃんがその側を嫌がる
乳腺炎とは、乳房に炎症が起きている状態の総称です。細菌の感染を伴う場合も、伴わない場合もあります。多くは片側の乳房の一部分に起こるのが特徴です。
うつ乳(乳汁うっ滞)と乳腺炎の違い
うつ乳(乳汁うっ滞)は、母乳がうまく流れずに乳房の中にたまった状態です。しこり・張り・痛みはありますが、強い赤みや熱感、全身の発熱は目立たないことがほとんどで、授乳や搾乳で流れれば比較的早く楽になることが多いといわれます。
一方の乳腺炎は、このうっ滞に炎症が加わった状態です。乳房の赤み・熱感・強い痛みに加え、38℃以上の発熱や悪寒などの全身症状を伴うのが特徴です。
この2つは地続きにつながっています。だからこそ、しこりに気づいた段階で母乳を流しておくことが、乳腺炎へ進ませない最初の一手になります。
化膿性乳腺炎・乳腺膿瘍に進むとどうなるか
炎症に細菌感染が加わったものを化膿性乳腺炎、さらに進んで乳房の中に膿がたまった状態を乳腺膿瘍といいます。海外の医学資料では、乳腺炎のうちおよそ3〜11%が乳腺膿瘍に進むと報告されています。膿瘍になると抗菌薬の内服だけでは治まらず、針を刺して膿を抜く(穿刺吸引)、あるいは切開して膿を出す処置が必要になることがあります。
裏を返せば、そこまで進む前に手を打てば多くは軽くすむということです。
乳腺炎になったら|今すぐやってよい対処
やることは「出す・冷やす・痛みを抑える・休む」の4つです。
授乳は続けるのが基本(やめない理由)
痛いとつい授乳を控えたくなりますが、たまった母乳を出すことこそが対処の中心です。授乳や搾乳をやめるとうっ滞が強まり、症状の悪化や膿瘍化につながりかねません。
「炎症を起こしたおっぱいを飲ませて大丈夫?」と心配になりますが、海外の総説では、お母さんと赤ちゃんはもともと同じ細菌を共有しているため、乳腺炎の間も授乳を続けてよいと説明されています。
- 授乳の回数を減らさない(時間を空けるほどうっ滞は強くなります)
- 可能なら痛む側から先に吸わせる
- 赤ちゃんが飲んでくれないときは、手やポンプで搾って出す
- 抱き方を変えると、しこりの部分から流れやすくなることがあります
なお、医師から授乳中止の指示が出ている場合や、乳頭から膿が出ている場合は、その指示に従ってください。
冷やし方・搾乳のポイント
冷やすか、温めるかは迷いやすいところです。国際的なプロトコル(米国ABM=Academy of Breastfeeding Medicine、2022年改訂)では、炎症を抑えるために「冷やす」ことが基本とされています。
- 保冷剤や冷却シートをタオルで包み(凍傷を防ぐため直接肌に当てない)、授乳の合間に10〜20分程度当てる
- 温めるのは、授乳の直前に短時間、母乳を出しやすくする目的にとどめる
- 熱いお風呂や蒸しタオルなど長時間の温めは、腫れを強めることがあるため避ける
搾乳は「空っぽになるまで搾りきる」と母乳の産生が増え、うっ滞を繰り返す原因になり得ます。張りや痛みが「楽になる程度」までを目安に。休息と水分も大切です。
授乳中でも使える鎮痛剤
痛みと熱は我慢しなくて大丈夫です。
アセトアミノフェンやイブプロフェン、ロキソプロフェンといった解熱鎮痛薬は、国立成育医療研究センターが公開する「授乳中に安全に使用できると考えられる薬」のリストに、解熱鎮痛薬として掲載されています(いずれも一般名。商品名ではカロナール、ブルフェン、ロキソニン等)。
ただし、持病(胃潰瘍・喘息・腎機能障害など)やアレルギー、飲み合わせによって選べる薬は変わります。市販薬は複数成分の配合製品も多いため、購入前に薬剤師にご確認ください。
「痛み止めを飲んだら授乳できない」と我慢する必要は、通常はありません。どの薬をどれくらい使うかは、医師・薬剤師にご相談ください。
やってはいけないNGケア
よかれと思ってしたことが、かえって回復を遠ざけてしまうことがあります。次の6つは避けてください。
1. しこりを強く押す・ぐりぐりもむ
いちばん多い誤解です。国際的なプロトコルでは、炎症を起こした乳房への強い深部マッサージは、むくみや細かな組織の傷を増やし、症状を悪化させ得ると指摘されています。ご自身で行う場合は、乳頭から脇の方向へ、皮膚を軽くなでる程度に。手技が必要なときは専門職に相談しましょう。
2. 自己判断での断乳・授乳中止
痛いからと急にやめると、うっ滞が一気に強まります。断乳を考える場合も、まずは医療者に相談してからにしてください。
3. 痛み止めを我慢する
痛みを我慢しても炎症は良くなりません。眠れないまま過ごすことは、回復にとってマイナスです。
4. 熱いお風呂・長時間の温め
赤く腫れているときに温め続けると、腫れが強まることがあります。シャワー程度にとどめましょう。
5. 極端な食事制限
「脂っこいものを食べたせい」と自分を責める方は多いのですが、脂質や乳製品を制限すれば乳腺炎を防げるという十分な根拠は確立していません(国内の『乳腺炎ケアガイドライン2020』でも検討課題として取り上げられています)。バランスのよい食事と水分を大切にしてください。
6. 以前処方された抗菌薬の残りを自己判断で飲む
必要な薬・量・期間はそのときの状態によって異なります。飲み残しの使用は避け、必要な場合は受診してください。
受診の目安|こんなときは我慢しないで
セルフケアには限界があります。次に当てはまるときは、我慢せず医療機関へご連絡ください。
24時間たっても改善しない・高熱・しこりが取れない
その日のうちに受診をおすすめする状態
- 38℃以上の発熱、強い悪寒、ぐったりする、水分がとれない
- 乳房の赤み・腫れ・痛みが強い、または範囲が広がっている
- しこりの部分がブヨブヨと波打つように感じる、皮膚が破れて膿が出ている
- 乳頭から膿のような分泌物が出る
「24時間」がひとつの目安
授乳・搾乳で母乳を出し、冷やし、痛み止めを使う──こうした対処をしても、12〜24時間たって症状が改善しない場合、あるいは全身の状態が悪い場合は、抗菌薬による治療を検討すべきとされています(WHOおよび母乳育児医学の国際的なプロトコルによる)。「もう1日だけ様子を見よう」と粘るより、24時間を過ぎたら相談すると決めておくほうが安全です。
数日以内に相談したい状態
- 乳腺炎を繰り返している、乳頭の傷がなかなか治らない
- 授乳後もしこりが残り続ける(授乳と関係のないしこりの場合、別の病気の可能性もあり、乳腺の検査が必要になることがあります)
受診先(産婦人科・母乳外来)と受診時の流れ
まずは出産した産院、産婦人科、母乳外来が基本です。授乳の様子まで含めて診てもらえます。名古屋市内でも、母乳外来や授乳相談の枠を設けている産婦人科があります。膿瘍が疑われる場合は乳腺外科での処置が必要になることもあり、その際は連携先を紹介してもらえます。夜間・休日につらいときは、まず出産した施設に電話で相談を。
受診の流れは、問診(いつから・どちら側か・体温・授乳の様子・飲んでいる薬)→乳房の診察→必要に応じて超音波検査(乳腺膿瘍の有無を確認)→治療(母乳の出し方の指導、解熱鎮痛薬、必要なら抗菌薬。膿瘍があれば穿刺や切開による排膿)が一般的です。体温の記録と服用中の薬をメモしていくとスムーズです。赤ちゃんを連れて行けるかは施設によって異なるため、電話予約の際に確認しておくと安心です。
繰り返さないための予防法
つらい思いを繰り返さないために、日々できる工夫をまとめます。
- 授乳間隔を空けすぎない──赤ちゃんが欲しがるタイミングで授乳する。夜間もあまり長く空けない
- 深くくわえさせる──浅飲みは乳頭の傷と排出不良の両方につながります。乳輪までしっかり含ませましょう。乳頭の傷は細菌の入り口にもなります
- 抱き方を変えてみる──同じ姿勢ばかりだと、飲み残しやすい部分ができることがあります
- 乳房を圧迫しない──きつい下着、抱っこ紐やバッグのストラップ、うつぶせ寝、シートベルトの当たり方に注意
- 急な断乳・急な授乳回数の減少を避ける──卒乳・断乳は段階的に。仕事復帰などで回数が減るときも徐々に
- 疲れをためない・水分をとる──疲労と睡眠不足はトラブルのきっかけになり得ます
- 乳頭に傷ができたら早めにケア──痛みが続くときは、くわえ方を専門職に見てもらいましょう
これらは「必ず防げる方法」ではなく、リスクを下げるための工夫です。何度も繰り返す場合は、授乳姿勢や母乳の分泌量そのものに理由があることも多いため、母乳外来などで実際の授乳の様子を見てもらうことをおすすめします。
よくあるご質問(FAQ)
Q. 熱があるとき、母乳を通して赤ちゃんにうつりませんか?
A. 乳腺炎は、母乳を介して赤ちゃんにうつる病気ではありません。海外の総説でも、乳腺炎の間も授乳を続けてよいと説明されています。むしろ授乳を続けて母乳を出すほうが回復の助けになります。ただし、乳頭から膿が出ている場合や、医師から中止の指示がある場合は、その指示に従ってください。
Q. 葛根湯は効きますか?
A. 葛根湯は乳腺炎の初期に用いられることがあり、国内の『乳腺炎ケアガイドライン2020』でも検討課題(クリニカルクエスチョン)として取り上げられています。ただし、症状を確実に改善させると言い切れるだけの根拠は確立していません。葛根湯だけに頼って受診が遅れることは避けてください。漢方薬も体質や持病によって向き不向きがありますので、使用の前に医師・薬剤師にご相談ください。
Q. 乳頭に白い点(白斑)ができました。どうすれば?
A. 乳頭の先に白い点や水ぶくれのようなものができ、その先の乳管が詰まって強く痛むことがあります。授乳前に軽く温め、深くくわえさせて吸ってもらうと自然に取れることもあります。針でつつく、無理に剥がすといった自己処置は、感染のきっかけになるため避けてください。繰り返す・痛みが強い場合は、母乳外来や産婦人科にご相談ください。
Q. 抗菌薬を処方されたら、授乳はやめるべきですか?
A. 授乳を続けながら使える抗菌薬が選ばれるのが一般的です。処方の際は「授乳中である」ことを必ずお伝えください。症状が軽くなっても、指示された期間はきちんと飲みきることが大切です。
まとめ:つらいときは、我慢しないで
乳腺炎は、授乳中のお母さんのおよそ1割が経験するとされるトラブルです。基本の対処は「母乳を出す・冷やす・痛みは薬で抑える・休む」の4つ。強くもむこと、自己判断の断乳、痛みの我慢は、いずれも回復を遠ざけてしまいます。
そして何より大切なのが、受診のタイミングを逃さないことです。対処をしても24時間たって改善しない、38℃以上の熱が続く、しこりがブヨブヨしてきた──このときは、どうか一人で耐えないでください。早めに診てもらうことが、乳腺膿瘍のような重い状態を防ぐ近道です。
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