産後の生理が再開しないのは大丈夫?授乳との関係と受診の目安
はじめに
「同じ月に産んだ友だちは、もう生理が戻ったらしい」──そんな話を聞いて、ふと不安になっていませんか。
自分のからだだけ置いていかれているような気がして、でも誰に聞けばいいのかもわからない。そんなもやもやを抱えたまま、毎日の授乳とお世話に追われている方は少なくありません。
まずお伝えしたいのは、産後の生理(月経)の再開時期は、驚くほど個人差が大きいということです。早い方と遅い方で、1年以上の開きが出ることも決してめずらしくありません。そしてその違いは、あなたの努力や体質の良し悪しで決まるものではありません。
この記事では、産後の生理がいつごろ戻るのか、授乳とどう関係しているのか、どんなときに受診を考えたらよいのかを、産婦人科の視点で整理してお伝えします。

産後の生理再開はいつ?一般的な時期の目安
産後の月経再開には、「授乳をしているかどうか」が大きく関わります。
授乳をしていない方では、排卵はおおむね分娩後4〜6週ごろに起こり、その約2週間後に最初の月経がみられることが多いとされています。一方、授乳を続けている方では、排卵と月経の再開が産後6か月近くまで遅れる傾向があります(MSDマニュアル プロフェッショナル版「産褥の管理」)。
ただしこれはあくまで平均的な目安です。実際には、授乳中でも早くに再開する方もいれば、1年以上こない方もいます。
授乳している場合・していない場合の違い
授乳をしていない場合、非授乳の女性を対象とした系統的レビューでは、初回排卵の平均は産後45〜94日と報告されています(Jackson E, Glasier A. Obstet Gynecol. 2011)。なかには産後1か月前後という早い時期に排卵する方もいます。
授乳をしている場合は、頻回の授乳が続いているあいだは月経が戻りにくく、卒乳・断乳をきっかけに数か月以内に再開するというパターンもよくみられます。混合栄養の方は、その中間くらいと考えるとイメージしやすいでしょう。
「完全母乳だから遅い」「ミルクだから早い」と単純に割り切れるものではなく、授乳の回数・夜間授乳の有無・離乳食の進み具合などによっても変わってきます。
個人差が大きい理由(プロラクチンなどホルモンの仕組み)
授乳中に月経が止まるのは、プロラクチン(乳汁分泌を促すホルモン)が深く関わっています。
赤ちゃんが乳頭を吸う刺激によってプロラクチンの分泌が高まると、脳から卵巣へ「卵を育てなさい」と指令を出すホルモン(性腺刺激ホルモン)の働きがおさえられます。その結果、排卵が起こりにくくなり、月経も来ない状態が続きます。これは医学的には授乳性無月経(乳汁分泌性無月経)と呼ばれる、産後のからだにとって自然な変化です。
つまり、生理が戻らないのは、からだが「今は授乳に専念する時期」と判断しているサインとも言えます。授乳の頻度やホルモンへの反応の仕方は一人ひとり違うため、再開時期にも大きな幅が生まれるのです。
生理再開が遅くても心配いらないケース
「もう半年たつのに来ない」「1年近く音沙汰がない」──それでも、多くの場合は心配のいらない範囲です。
とくに、授乳を続けていて、ほかに気になる症状がないのであれば、まずは経過を見守って問題ないことがほとんどです。判断の材料として、次のような状態は自然な経過と考えられます。
- 授乳(とくに夜間授乳)が続いている
- 体重・体調が大きく崩れていない
- 強い倦怠感・動悸・脱毛・気分の落ち込みなどが目立たない
- 乳汁の分泌が保たれている
授乳中は1年以上こないことも珍しくない
授乳中の女性を対象とした研究では、産後6か月の時点で月経が再開していた方は4分の1程度にとどまり、無月経の期間が平均で280日を超えたとの報告もあります。つまり、授乳を続けている方にとって「1年近く生理が来ない」ことは、例外的な事態ではありません。
周囲の方と時期がずれていても、それは優劣でも異常でもありません。あなたのからだのペースがあるというだけのことです。
とはいえ「ほかに症状がなければ」という前提は大切です。次の章の目安に当てはまる場合は、経過観察ではなく一度ご相談ください。
注意が必要なケース|受診を検討する目安

自然な経過であることが多い一方で、背景に治療が必要な状態が隠れていることもあります。次のような場合は、時期を待たずにご相談ください。
- 卒乳・断乳から3か月以上たっても月経が来ない
- 授乳を続けているが、産後1年以上たっても月経が来ず、ほかにも気になる症状がある
- 動悸・強い倦怠感・急な体重の増減・脱毛・気分の落ち込みなどを伴う
- 授乳していないのに乳汁がにじむ、頭痛や視野の異常がある
- 分娩時に大量の出血があり、その後母乳がほとんど出なかった
- 生理は来ないが、性交渉があり妊娠の可能性が否定できない
断乳後数か月たってもこない場合
医学的には、これまであった月経が3か月以上止まった状態を「続発性無月経」と呼びます(日本産科婦人科学会 用語の定義)。授乳中はこれに当てはまっても生理的な範囲ですが、授乳という理由がなくなった後も月経が戻らない場合は、別の原因を確認する意味があります。
そのため、卒乳・断乳からおおむね3か月を、ひとつの受診の目安と考えていただくとよいでしょう。「もう少し待てば来るかも」と1年以上抱え込んでしまう方もいらっしゃいますが、早めに調べたほうが対応の選択肢は広がります。
高プロラクチン血症・甲状腺など隠れた原因
授乳をしていないのにプロラクチンが高い状態が続くものを高プロラクチン血症といい、下垂体の良性の腫瘍(プロラクチン産生腫瘍)や、一部のお薬の影響などが原因になることがあります。授乳していないのに乳汁がにじむ、といったサインを伴うことがあります。
また、甲状腺の機能の変化も無月経の背景になり得ます。産後1年以内には一過性の甲状腺機能の異常が起こることがあり、日本産婦人科医会の資料でも、産褥2〜6か月ごろに機能が高まるタイプ、分娩後3〜12か月に機能が低下するタイプが報告されています。多くは産後1年ほどで自然に改善しますが、一部は治療が必要な状態へ移行することがあります。
さらにまれではありますが、分娩時の大量出血のあとに下垂体の働きが低下し、乳汁が出ない・月経が戻らないといった症状が続くことがあります。
いずれも、血液検査(プロラクチン・甲状腺ホルモンなど)や超音波検査で調べられるものです。原因がわかれば対応できますので、「気にしすぎかも」と思う段階でも遠慮なくご相談ください。
生理再開前でも妊娠する?排卵と避妊の話
ここは、とても大切なところです。結論からお伝えすると、生理が来ていなくても妊娠する可能性はあります。
理由はシンプルで、排卵は月経よりも先に起こるからです。最初の月経は、その約2週間前に起きた排卵の結果としてやってきます。つまり、「生理が来ていない=まだ排卵していない」とは限らず、気づかないうちに1回目の排卵が起きていることがあるのです。
実際、非授乳の方では産後1か月前後で排卵する例も報告されています。「まだ生理が来ていないから大丈夫」という考え方は、避妊の根拠にはなりません。
授乳による避妊効果(乳汁分泌性無月経法/LAM)については、世界保健機関(WHO)の資料で、
①産後6か月未満、②完全またはそれに近い母乳育児(夜間も含む)、③月経がまだ戻っていない
という3つの条件をすべて満たす場合に限り、妊娠の可能性は1%未満とされています。逆に言えば、ひとつでも欠けたら避妊とは考えられません。離乳食が始まった、夜間授乳が減った、少量でも出血があった──どれか一つでも当てはまれば、別の避妊法を考える時期です。
産後の避妊法には、授乳中でも選びやすい方法と、時期を選ぶ必要がある方法があります。ご自身の授乳状況やご希望(次のお子さんをいつ頃考えているか)によって適した方法は変わりますので、産後健診のタイミングなどで気軽にご相談ください。
再開後の生理が以前と違うとき
無事に月経が再開しても、「前と何か違う」と感じる方は多くいらっしゃいます。
周期が安定しない
再開してすぐの数か月は、周期がばらついたり、排卵を伴わない出血になったりすることがあります。ホルモンのリズムが戻る途中の段階で、3〜6か月ほどかけて徐々に整っていくことが多いとされています。
経血量が変わった
「以前より少なくなった」「逆に増えた」という声はどちらもあります。妊娠・出産による子宮の変化や授乳中のホルモン環境が影響することがあり、多くは一時的です。
月経痛が変わった
「出産して軽くなった」という方もいれば、「以前よりつらい」という方もいます。
いずれも経過とともに落ち着くことが多いのですが、次のような場合は一度ご相談ください。
- 1〜2時間ごとにナプキンを替えるほど出血が多い、レバー状の塊が続けて出る
- 痛みで日常生活や育児に支障が出る、市販の鎮痛薬が効かない
- 再開から半年以上たっても周期がまったく安定しない
- 出血が10日以上だらだら続く、月経と月経のあいだにも出血がある
よくあるご質問(FAQ)
Q. 生理が来ないまま2人目を妊娠することはありますか?
A. あります。前述のとおり排卵は月経に先行するため、一度も生理を見ないまま次の妊娠が成立することは実際に起こり得ます。次のお子さんを希望される場合も、しばらく間隔をあけたい場合も、産後の早い時期から避妊について考えておくと安心です。
Q. 再開直後に周期が乱れています。大丈夫でしょうか?
A. 再開直後の不順は多くの方が経験する自然な経過です。目安として3〜6か月ほどで整っていくことが多いとされています。ただし、半年以上たっても安定しない、出血が長引く、量が極端に多いといった場合は、一度検査でご確認ください。
Q. 悪露と生理はどう見分けますか?
A. 悪露(おろ)は分娩後の子宮からの分泌物で、はじめの数日は赤色、その後1〜2週間かけて褐色から白っぽい色へと変化し、産褥期(分娩後6週間)のあいだに落ち着いていくのが一般的です。色が薄くなりながら量が減っていくのが悪露、いったん落ち着いた後に鮮やかな赤い出血がまとまって数日続くのが月経、という見分け方が目安になります。
なお、一度減った悪露が再び真っ赤な出血に戻る・急に量が増える場合は、月経の再開ではなく別の原因のことがあります。この場合は様子を見ずに医療機関にご連絡ください。
Q. 生理が戻らないと、からだに悪い影響はありますか?
A. 授乳による一時的な無月経は自然な状態で、それ自体を治療する必要はありません。ただし、無月経が長期にわたる場合には、原因によって対応が変わります。授乳という理由が当てはまらなくなった後も戻らないときは、一度ご相談ください。
Q. 生理を早く再開させる方法はありますか?
A. 「これをすれば必ず戻る」という方法はありません。授乳の頻度が減っていくにつれて自然に再開していくことがほとんどです。無理な食事制限は、かえってホルモンのはたらきに影響することがあります。産後は睡眠も食事も整えにくい時期ですので、できる範囲で十分です。
Q. 帝王切開だと再開時期は変わりますか?
A. 分娩の方法そのものよりも、授乳の状況によるところが大きいと考えられています。帝王切開だから遅い・早いと一律に決まるものではありません。
まとめ:比べなくて大丈夫です
産後の生理再開は、授乳をしていない方でおおむね産後1〜2か月ごろ、授乳中の方では6か月以降、1年以上あいてからという方まで、非常に幅があります。授乳中に月経が来ないのはプロラクチンによる自然な変化であり、あなたのからだの異常ではありません。
一方で、卒乳・断乳から3か月以上たっても来ない、動悸や強い倦怠感などを伴う、といった場合は、甲状腺やプロラクチンなど調べられる原因があります。また、生理が来る前でも妊娠は起こり得るため、避妊は「生理が戻ってから」ではなく早めに考えておくと安心です。
周りと比べて焦る必要はまったくありません。それでも不安が続くとき、判断に迷うときは、どうぞ一人で抱え込まずに産婦人科へご相談ください。検査でわかることも多く、「異常はありません」と確認できるだけでも気持ちが軽くなるはずです。
監修:【監修医師名】(【クリニック名】 産婦人科医)
